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湖北夕照 – 透きとおったリアリズム

湖北の人々の篤い信仰とは、 生きとし生けるものすべてに対する 『無常観』『共生観』 に依って立つ神仏の道への共鳴であり、 それ故の敬慕であったのだと思う。 かかる神仏の掌の上であることを無意識に感受し、 人々は 『おかげさまで』 『これもご縁なのです』 と心静かにすべてを受け入れ生きてきたのではないだろうか。

それはしかし、 現実逃避の安易な生き方などでは決してなく、『苦』 の現実を真正面から真摯に受けとめ、 『慈悲』 と 『清く明けく尚し』 に明日への希望と勇気をいただいた確かな歩みだったのだ。

普段着で親しく交わる湖北の神事や仏事は、神や仏の前に自らを省み、互いの心を通わせる憩いのひとときでもあり、 生きて今あることを確かめ、 明日への希望と勇気を得るときであったのだ。

今も湖北の多くの村に続く社寺の信者の組織 『講』 は、 中世末戦国期の農民の自治意識の高まりの中で、 とりわけ真宗門徒の信者組織として広まったのである。 私もお参りのたびに村の人たちとの一体感を強く感じる。 今よりもっと信仰の篤かった時代、 私たちの祖先の抱いた一体感はどんなに深いものであったかと思う。

戦後の日本では、戦前の不幸な歴史もあり、宗教について語ることがタブー視され、神や仏への傾倒の心、 信ずる心を時代遅れ、 現実逃避だとか弱者の戯れ言と蔑視する傾向さえあるように思う。

司馬遼太郎さんは、 『明治という国家』の中で 「明治はリアリズムの時代でした。 それも透きとおった格調の高いリアリズムの時代でした。 国家を成立させているその基礎にあるものは、目に見えざるものです。 圧縮空気といってもよろしいが、 そういうものの上にのった上でのリアリズムです」と述べておられる。

湖北の人々の培ってきた信仰心は、司馬さんのおっしゃる 『圧縮空気』 に当たるのではないか。

目には見えない『地下水』といってもいい、 その『圧縮空気』や 『地下水』 をかなぐり棄ててしまった戦後今日までの日本人に 『透きとおった格調高いリアリズム』を期待するのは、所詮無理なことであり 「頽廃したリアリズム」 が跋扈することになったのではないか。

高月の渡岸寺の 「十一面観音菩薩」は平安初期のもので、 参拝する誰もに注がれるその温かく透き通った微笑みは、 その前に立つ人を優しく惹きつけてやまない。 重なる災害や兵火から己が身を引き換えにして尚、観音さまをお護り通してきた村人の千年の日々は、 『無常』 と 『共生』 を地下水とした 『透きとおった格調高いリアリズム』 だったのではないか。

私の村でも先年、二十年かけ、氏神と手次寺が全面修復された。 棟札には 『江戸天明』 と記されていた。 凶作続きの時であり、修復なった氏神の鳥居に、寺の山門に立つとき、 祖先の献身に頭が下がった。

湖北のほぼ真ん中辺り、静かな農村に天を指す白い尖塔、 それは湖北の集落景観にあって異彩を放っている。 その集落は東阿閉、 ヤンマーの創業者山岡孫吉翁の生誕地、翁は数々の艱難辛苦を乗り越え、世界初の小型ディーゼルエンジンの開発に成功され、今日のヤンマーの礎を築かれた。 翁は、ふるさと湖北への思い、感謝を片時も忘れられなかったと伝えられている。 当時、農業以外に働くところのなかった湖北の村にと、住む家の一角に家族で営める小さな部品工場を無数に作られた。 利益を度外視しての、 唯々自分を育ててくれた湖北の地に、 湖北の人々に恩返しをしたいの一心であったと。 小さな小さな農村工場は、近年まで湖北の農村に息づいていた。 そうして晩年、 生まれ故郷に、 ディーゼルエンジン発祥の地ドイツの農村の教会をモデルにされた尖塔のある洋風の会堂を建てられた。 その会堂は村人の集いの場となっている。

三十年近く前になろうか、 ジュネーブからパリまで列車の旅をした。 フランスの大平原に点在するどの村にも、 塔のある教会が目にとまった。 湖北の農村の鎮守の杜と寺院の甍のように。 翁が、 自分の生誕の地に尖塔のある教会風の会堂をと思われたのは、ドイツの人々のキリスト教信仰への敬虔な姿と翁自身の生きる源泉としての湖北の信仰とを重ね合わされのではないか。 そうした思いで東阿閉の集落の尖塔を眺めるとき、 異彩を越えて湖北の農村風景との見事な調和を思う。

『湖北夕照』、 今日もびわ湖の西の山の端に沈む夕日に、 湖北の野山も町も村も茜に輝いている。 その湖北の大地の下に流れる目には見えない地下水、 その地下水のように、 確かな 『湖北の地の清澄なリアリズム』 に身を委ねようと、司馬さんはおっしゃっているのだと思う。

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