『仏陀経営』を手に取ったとき、私はまず「人生は思いどおりにならない」という言葉にハッとさせられました。これまで修行といえば、座禅や読経ばかりに目を向けていましたが、本書は「日常こそ修行だ」と教えてくれます。たとえば、同僚との些細な衝突ですら「執着を手放す」絶好の機会であり、その態度の積み重ねが〈無我〉への道を拓く――そんな実践的な指針に、僧侶を志す私の心は軽く、しかし確かな手応えを覚えました。
一方で、企業経営の現場に身を置く者としては、「一切皆苦」の考え方が、リスクマネジメントにも応用できることに気づかされます。市場や人心の移ろいに一喜一憂せず、状況を冷静に受け止める力は、組織を見守るリーダーにこそ必要です。また「競争しない働き方」「お金は使い方が大事」といったテーマは、利益至上主義に偏りがちな経営者へのアンチテーゼとなり、社員や社会との共創を促す示唆に満ちています。
僧侶として「心の拠り所」を追い求めつつ、経営者として「持続可能な組織づくり」を志す──本書は、一見異なる二つの立場をつなぐ架け橋です。私自身、この両極にある課題を抱えながらも、仏陀の「中道」の教えを土台に据えることで、ブレずに前へ進む勇気を得ました。読了後には、ただ知識としての仏教ではなく、生き方そのものを経営する智慧として腑に落ちる一冊だと感じています。















