衆生済度への道:障害者支援の現場から見えた真理
私は、これまで人が人として生きる過程で生じる“苦しみ”に対して、障害者支援という切り口で触れてきました。 何かしらの疾病や変調によって“生活のしにくさ”が生じ、それが慢性的に継続する状態を“障害”と呼びます。この障害という状態だけとっても、その状態にある人は自分自身の中に起こっている生活がしにくい状態を苦しんでいるし、受け入れられず苦しんでいる。更にはその原因となった疾病や変調になってしまったことを不幸とし苦しんでいるのです。
これだけでも十分に苦しみの様子はイメージに難くないですが、やはり障害状態にある前にも、まず人である。お金が欲しい、異性と深く繋がりたい、働きたい(働けない)、美味しいものを食べたい、美しくいたい、健康でいたい、死にたくないなど、根本的な欲求は変わりません。障害状態にあっても例外なく“欲”に苦しみ、“貪瞋痴(とんじんち)”の三毒によって苦しんでいます。
苦しみから救われる真理と「慚愧」の実践
この苦しみから救われるためにはこの世の真理を知る必要がありますが、それが真に見事にまとめられているのが仏教であると私は知ることができました。やはりそこには、苦しみから救われる方法がくっきりはっきり示されています。
『二つの白法あり、より衆生を救く。一つには慙(ざん)、二つには愧(き)なり。』
これは『涅槃経』の一節であり、親鸞聖人の『教行信証』にも引用されている一節です。
人を救う真理は慚愧であると明確に示されています。慚愧とは「はじること」。慚は自分自身と向き合いはじること、愧は社会を通してはじること。これが人を余すことなく救う真理であると説明されます。
この「はじる」という行為は、私が行っている障害者支援や対人援助という業界の中では、“内省”や“自己覚知”と呼ばれる作業であると言えます。自分自身や社会を通して、自分自身がどのような状態にあり、対象者に対しどのような影響があるのかなど深く深く探る作業です。
衆生済度と対人援助の倫理
そして自分自身に何ができ、そのできることは正しく効果が発揮されるか否かを考え実行するのです。この実際の行動は有形無形にとらわれずあるのですが、まさに「布施」そのものであると感じます。
ただ、これでも苦しみから救われない人は存在します。法を聞く耳を持たないものはやはり救われません。しかしやはり衆生済度でありたいと私は願います。
なぜ法を聞く耳がないのでしょう。法を聞く耳がないのではなく、真理を正論と受け取ってしまう心が壁となっていると考えられます。この真理に触れても正論と捉えてしまう人は、「そうはいっても現実は…」となってしまいます。であれば、私たちは「方便」を尽くします。その人に身近なこととなるように的確に真理を伝えます。
援助者が陥りがちな「共依存」の罠
残念ながら、真理を方便で説いても受け取ってすらもらえない人も多くいます。苦しみから逃れたい、救われたいと思っていることは確かなのですが、欲に基づいた充足を幸せだと思いこんでいる人たちです。さらに残念なことに、このような状況に直面すると、対人援助を行う人は間違いを犯してしまう場合が多いです。
私自身も何度も間違えました。それはどのような間違いかというと「何か役に立てることはないか」とその人に尋ねてしまうことです。これは多くの場合、結果として、苦しみを救うどころか、それを救おうとする自身もまきこまれ、苦しみの渦の中に沈んでいきます。これが酷くなった状態を共依存と言ったりもします。
自ら求める力を引き出す「光」となる実践
ではどうすれば良いのか。ヒントはやはり人は救われたいと思っており、自ら救われたいと思って日々行動しているということです。この動きに救いのヒントがあるとすれば、その人がどこの何に向かって救われるために近づいているのかを知ることが大切です。
こちらから一方的に与えるよりも、自ら求めることのほうがその人の気づきを促す力は比較になりません。自ら求める存在とは何か。それは徹底的に自分の好きなこと、信じることを貫いて行動実践している存在です。
ものすごく簡単に例えれば、シンガーソングライターがその存在に近いです。救われたい人がその存在が生み出す歌を聞き、ファンになり、自身の生き方の変容まで起きるわけですから。
衆生済度をはたさんとするならば、それに挑もうとする自分自身がまず、自身が好きなこと信じることを定めそれに邁進することにあるのだと思います。その結果、そのエネルギーや光は救いを求める人に届き、自ずと集まってくるでしょう。このような状態が成せたとき、垣根を払い手を差し述べることが、初めて余すことなく救う作業となるのではないかと考えるわけです。
まさにお釈迦様はそれを実践実行された方であり、故に現代に至ってもお釈迦様に人は集まり、救われているのです。
















