毎日が同じことの繰り返しで、変化がない。そんな「平凡な日々」への違和感は、実は自身の感覚が鈍くなっているサインかもしれません。仏教では、五感と心(六識)を閉ざして鈍感になるのではなく、むしろ繊細に世界を捉えることを説きます。周囲の変化を細かく感じ取りながらも、特定の出来事に執着しない「放下着(ほうげじゃく)」の精神とは何か。念仏や瞑想を通じて、退屈な日常を意味ある時間へと書き換えるための具体的な思考法を提示します。
変わらない毎日への問いかけ:仏教が示す「諸行無常」
最近を振り返ると、毎日が変わらない平凡な日々を過ごしてきたと感じています。仏教で「諸行無常(あらゆるものは常に変化している)」とされている中で、毎日が変わらないと感じることは、ある意味で穏やかで幸せなことなのかもしれません。ですが、そう感じている状態は、本当にそれで良いのでしょうか。
もちろん、治安や経済の悪化により、生きていくことに対する不安が大きくなるようなことは起きないでほしいと願います。しかし、毎日が同じに感じてしまう感覚は、裏を返せば、ささいな変化に気付けていない自分が「鈍感」な状態にあるのかもしれません。
「鈍感力」と仏教の三毒
以前、「鈍感力」という言葉が流行しましたが、そのポイントは「小さなことに振り回されない」「失敗や批判を引きずらない」などとされていました。これは、仏教の三毒(貪・瞋・癡)のうち、貪(むさぼり)や瞋(いかり)を回避する方法であると言えるかもしれません。
しかし、仏教における理想は、感受性を閉ざすことではありません。むしろ、諸行無常を理解し、すべての物事が関係性の中で常に変化しているという「空(くう)」と「縁起(えんぎ)」の真理を知り、この変化を的確に認識することが重要です。
繊細な変化を捉える「六根」と「六識」
変化を漠然と捉えてしまうのは、私たちの感覚器官(六根)から得られる認識(六識)が不足しているためかもしれません。
変化をとらえるのは、六根「眼(見る)、耳(聞く)、鼻(嗅ぐ)、舌(味わう)、身(触れる)、意(心で感じる)」から得られる六識が基本とされています。漠然と感じている感覚は、心で感じる「意識」が不足しているのかもしれません。繊細な感覚でとらえた六識をはっきりと受け止めていけば、平凡な一日とは違ってくるはずです。
認識を深めるための「不動心」と「放下着」
繊細な感覚を持つと、苦しみや喜びも強く感じやすくなりますので、より冷静に対処していくことが必要とされています。自分の心のあり方によって、ものの見え方も変わってしまいますから、どのような状況でも心を乱されない、落ち着いた心の状態が求められます。
- 不動心:心を乱されない落ち着き。
- 忍辱(にんにく):怒らず、受け流す力。
- 無我(むが):自分という存在にこだわらないこと。
- 空(くう):すべてのものは固定した実体を持たないという真理。
- 放下着(ほうげじゃく):執着やこだわりを手放し、些細なことに反応しないこと。
感じることを遮断する「鈍感力」とは異なり、仏教では、広く深く認識した上で、これらの教えに基づき適切な対応をしていくことが必要なのです。
念仏と瞑想がもたらす心の変化
ものごとを細かく見えるようにするための手段として、浄土門では、「観想念仏」や「称名念仏」の日々の積み重ねにより、心が澄んでいき、繊細な変化を感じられるようになるとされています。念仏を唱えると、その日の声の調子や、リズムの変化、集中力の変化など、自分自身を細かく感じることができます。
また、瞑想の中では、心が落ち着き軽くなり、日常の中の感謝や喜びも見つけやすくなります。
私は、念仏を唱え瞑想する時間を大切にすることにより、自分の見える世界が変化していくことを期待しています。そしてその経験を家族や人に伝えることで、周囲の人の心の目も少しずつ変えていけることも期待しています。
「六識」による「正見」や「如実知見」で日々の出来事を細かく感じ取りながら、執着を捨てる「放下着」と、常に冷静な心「正念」「正定」の対応で、平凡と感じる日々が次第に少なくなることを目指していきます。
南無阿弥陀仏

















僧侶、著述家、宗教法人得藏寺 代表役員
愛知県名古屋市出身。浄土真宗大谷派である名古屋大谷高校業後、20歳で独立起業。自動車販売業、美容事業、飲食事業、リサイクル事業と、次々に事業を立ち上げる。
独立起業後10年を経て自身の中に湧きあがる疑問と向き合うため、事業を整理し、ヨーロッパを中心に世界30カ国以上を旅する中で、多くの宗教や文化、習慣や常識の違いに触れる。
「人は生きているだけで毎日が修行」という考えに至り、時代が変化しても自然淘汰されない“在り方”を仏教に見出す。
現在は誰もが「得度」し、僧侶になれる機会を提供している。
信念は、「人生を変えるのに修行はいらない」
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